精練について
皆様 こんにちは
今回は精練についてアップします。呉服の製造工程で精練や練りという単語は良く耳にするのですが、実際どのようなものなのでしょうか?
① 白生地の精練
・精練法
生糸で織られた生地を石鹸―アルカリ溶液で処理して生糸のセリシンを落し、しなやかな白生地にする工程を精練(練り)と呼んでいる。
白生地は10m・12m・16m・24m・48mの長尺のものであるから、精練作業で精練浴槽に布を入れるため、何らかの形にたたまなければならない。一般に70cm~100cmにたたむが、長尺に多く利用する12mものを75cmにたたむと16枚重ねとなり、平均に精練するのはなかなか難しい。練むらと呼ばれる故障が起こるのは、こうして16枚重ねてたたんだまま精練後の水洗いをするときに生じる洗いむらによることが多いと思われる。
・漂白と蛍光漂白
精練の際には、精練浴へハイドロサルファイトを少量添加して漂白を行っている。一部では白度を上げるため、精練工程の中間に過酸化水素漂白を行うことがある。
蛍光増白剤で後処理すると白度は向上するが、生地ヤケが生じやすく、その上、地引染の際に染めムラを起こすことも多い。そのために軽めの裏地には蛍光増白処理がしてあるが、着尺用の生地には蛍光増白処理は行っていない。また、蛍光増白した生地は手描友禅には適していないといえるので、他に比べて異常に白いものは要注意である。
・幅出し
精練が終わると幅出し・物理仕上げをして出荷される。
白生地の幅は通常36cm~38cm またはそれ以上の幅に仕上げられている。しかし、一越や古代縮緬などの縮む縮緬は“中のし”と称して33cm またはその近くの幅に整えて出荷される場合がある。こうしたものは必ず下のしで所定幅に仕上げる必要がある。
② 白生地の精練残渣と染着性
精練浴には石鹸・アルカリ・界面活性剤・漂白剤・あるいはその他の薬剤が投入される。そのため精練浴で生地を煮沸加工している間に、薬剤の一部が絹に吸着したり、精練で脱落したセリシン蛋白も白生地の表面に付着する。こうした付着物はすべて染色性に影響を与える。
その主なものは次のようである。
・石鹸 ・再付着した蛋白質 ・アルカリ ・漂白剤
白生地を熱湯に浸すと、白生地から不純物が出て、白く濁りを生じるが、この汚濁物が精練残渣の中の石鹸と再付着した蛋白である。
・石鹸
0.5%~1.2%の石鹸が白生地上に残留している。生地のふっくらした柔軟性は吸着された石鹸による効果の一部である。石鹸はまた染料液の浸透性をよくするとともに、緩染作用による均染性を発揮する。したがって石鹸残留が多いほど染料の吸着が遅くなるので、刷毛ムラの心配が少なくなる。反対に石鹸分が少ないと、染料が表面に早く吸着するため、刷毛ムラが生じやすくなる。
石鹸の使用量は精練工場によって異なり、残留量も差があるので精練工場による染色性の違いを把握しておくことが大切である。
・蛋白質
白生地上の蛋白質残渣は、精練浴へ一度脱落したセリシンが再付着したものと考えられるが、染料をよく吸着する性質を持っている。
この蛋白質残渣は、水によって移動しやすいため、精練後部分的に乾いたところができると水と一緒に移動して蛋白質残渣が部分的に集中し、それが濃くなると染ムラとなる。また、一旦乾燥された後、部分的に水漏れを生じたり、生地を水に浸してやることで蛋白質残渣の移動ムラを生じ、染ムラとなる事例も多いので注意が必要である。
実例として以下のようなものがあります
- 青花落し(散らし)での移動(本友禅・ゴム糸目)
- 前処理(湯通し・地入れなど)による移動
- しみ抜きなどによる部分洗い、つまみ洗い
- 水滴の付着
- 引染の下染として浸染する場合
- 目引き
- 失敗でやり直しのための脱色・水洗
- 引染を繰り返し重ねる場合、途中で水洗を入れる
- ピース・ダック・型置・蒸し後の水洗(後引染する)
以上の他にもいろいろな事例があると考えられるが、いずれも地染する前に水をくぐる工程を入れる場合注意する必要がある。
・他の残留物
繊維上にアルカリ分が多く残留していると、染料によっては発色性が変わるものがある。また、アルカリが多く残る場合は、繊耳に近い部分か耳端にそって1㎜~2㎜位の幅に変色部分ができたり、1円硬貨大の変色を生じる。こうした場合に蒸しをかけると繊維が弱ってその部分から破れてくることがあるので注意が必要となる。
漂白剤、特にハイドロサルファイトの残留は蒸熱時の地色変色の誘因となる可能性がある。また、金加工に使用される銀素材が硫化変色して黒変することもある。
③ 白生地の前処理
白生地上の精練残渣の影響防止策の一つは、適正な加工取扱いに徹するよう努力することが第一で、加工前にどうしても水に浸す工程を経なければならないときは、平均によく洗い、平均に絞って乾燥する必要がある。
また、積極的な防止策としては前処理・再錬が有効な手段となる。これは残渣移動ムラが生じやすい工程ではあるが、精練残渣を一番よく除去するにはこの方法に勝るものは無い。
反面、精練残渣が移動するような条件で処理ムラが生じると、それが直ちに染めムラとなる危険もある。しかし、前処理、再精練を適切かつ正確に行えば、前記のような精練残渣による各種の事故はある程度未然に防止できると言える。また、蛋白質残渣や石鹸分の減少によって、鮮やかな染着を示すようになり、処理効果も大きい。
しかし、石鹸分の減少によって白生地の染着力が増すため、刷毛ムラが出やすくなる。こうした場合は活性剤・アンモニア水などの均染剤の使用が効果的となる。
④ 白生地の経時変化
白生地の経時変化による染着不良は、一般に精練後6カ月以上経過したものに発生する。一部のものは2ヶ月くらいでも水をはじいて引染液が裏面へ通らないものがある。経時変化は精練残渣の空気中の酸性ガスによる変化や、油ヤケ、その他の減少が複合して起きるものと推察され、それによって次のような事故が生じる。
- 水をはじくようになる
- 引染で裏通りが悪い
- 染色がいらつく(微少部分での染ムラ)
- 発色がきたない
- 生地上で染料が分離して、しぼ・織繊維の凹凸によって色が異なる。
経時変化事故については前処理、再精練で完全に防止しえるが、古い生地か新しい生地かをまず選別する必要がある。